印刷用途のファイル形式には何があるの?
入稿(印刷)用途のファイル形式は「各種アプリケーション(ネイティブ)形式」と「PDF形式」があります。
従来からの主流は、デザインを作成した各種アプリケーションでの「Illustrator入稿/ai形式」、「InDesign入稿/indd形式」、「Photoshop入稿/psd形式」といったアプリ固有のネイティブ形式です。
一方「PDF入稿」とは、各種アプリケーションで作成したデザインをPDF形式に変換したデータで入稿することを指し、近年、PDF入稿を推奨する印刷会社がふえているのです。
PDF形式とは?
PDF形式(Portable Document Format)とは、文書交換用のドキュメ ントで、文書を作成したままのレイアウト(見た目)で表示・閲覧できるため、印刷用途にも最適です。
PDFは日常生活にあふれ、製品の取説やOffice製品のピジネス文書からクリエイティブな分野まで、あらゆる電子の紙として利便性が高く、セキュリティ機能も付帯できるため不正な改ざん防止にもなります。
PDFファイルを開くための代表的なアプリはAdobeが無料配布しているAdobe Acrobat Readerです。どの末端からでも表示ビューアーとしてインストール可能です。
PDFファイルを編集したい場合は、有料版のAdobe Acrobat Proや、数あるメーカーのPDF編集ソフト(各種アプリ)を使います。検索すると無償・有償のアプリがたくさん出てきます。
【文書フォーマット】「Word」と「PDF」の違いは?
- そもそもドキュメント用編集ソフトは、Microsoft社のWordが1983年の発売以来、圧倒的シェアを維持していますが、Wordで作成したファイルは共有した相手とのOS環境やフォント環境に違いがあれば、レイアウトが崩れ文字化けになるため「閲覧用・印刷用・配布用ドキュメント」としての再現性が低く不向きです。
- Adobe Acrobatは、Adobe社により開発され1993年(Word販売の10年後)に登場しました。OfficeやAdobeなどの各種ソフトで作成したデータは保存時にPDF形式に変換・保存すれば画像とフォントの埋め込み機能によってレイアウト(見た目)が保持されます。共有相手との端末の互換性を気にせず作成した通りのレイアウトで再現されます。
PDFファイルは校正用としても!
PDFファイルは校正用途としても欠かせません。オンライン上での校正のやり取りや、印刷所でのリモートプルーフ(プリンター出力で色校正する工程)でも活用されています。
PDF入稿のメリットは?PDF形式が最適な理由
「各種アプリ(ネイティブ)形式」での入稿の場合、印刷業者は印刷結果に影響する項目をすべて点検する必要があります。
デザイン内のリンク画像は元画像が添付されてるか?埋め込み画像なのか?フォントのアウトライン化の有無は?「印刷所内で所有する各種アプリ」と「入稿者のアプリ」がバージョン違いの場合はレイアウト崩れが起こるリスクがあり、問題発覚後は顧客へ報告し対応策を提示します。
各種アプリのバージョンが多くなり過ぎた現代では、アプリ形式の入稿よりも、国際標準規格ISO 15930で統一されたPDF形式の方が安全で印刷会社・顧客の双方にメリットがあります。
1. 作業効率の向上でミスを回避する
PDF形式データはフォントや画像が埋め込まれているためレイアウト崩れによるミスがありません。印刷所内ではPDFデータを専用ソフトで一括処理できるため、目視での各チェック工程が不要になり、チェックエラーで起こり得る印刷トラブルを回避します。
2.データ容量が軽くなる
PDF形式データはシンプルな構造でムダがなく必要最小限のデータ容量で済むため軽くなります。(アプリ形式ではアプリ独自の詳細なレイアウト情報や多数の画像ファイルの添付など総データ量が重くなりがちです)
3.コストカットできる
人件費・時間的制約・入稿データのミスによる印刷トラブルでの再印刷が減るため総コストが下がり、結果的に印刷料金が安くなります。
4.セキュリティを強化できる
パスワードロックや暗号化などのセキュリティ機能を付けられるため、送信のやり取りで起こり得るデータ漏洩のリスクを防ぎます。
印刷用PDFの書き出し「プリセット」設定は?
各種アプリで作成したデザインをPDF化するには、
[ 別名保存、もしくはコピー(複製)を保存 ] → [ PDF書き出し] → [ PDFのプリセット設定 ]→ [ PDFを保存 ]で完了します。
- 「別名保存」でPDF保存すると、編集中の元ファイルをPDF形式に置き換えます。そのまま編集を加えて「上書き保存」すると画面のPDFファイルに上書きします。
- 「コピー(複製)を保存」でPDF保存すると編集中の元ファイルはそのまま残り、PDFファイルを別途、作成・保存します。そのまま編集を加えて「上書き保存」すると画面の元ファイルに上書きします。
入稿用PDFのプリセットは「PDF/X-1a」または [PDF/X-4」
印刷業界向けといえば「PDF/X」で世界標準規格の電子入稿フォーマットです。PDFのプリセット規格は複数ありますが、商業印刷の制作現場に適合した「オフセット印刷」の仕様は「PDF/X-1a」と「PDF/X-4」です。
「PDF/X-1a」と「PDF/X-4」はどう使い分ける?
- 「PDF/X-1a」は、最も基本的な入稿フォーマットです。
フォントは埋め込み、カラーはCMYK・特色・グレースケールのみ、透明効果の対応は不可です。
(PDF/X-1aの機能を拡張した「PDF/X-3」はRGBカラーをサポートする) - 「PDF/X-4」は、PDF/X-1aでは対応外の機能を加えた最上位バージョンです。
カラーはRGB・CIELAB・ICCプロファイル付きをも許容し、レイヤー情報や透明効果・グラデーションメッシュなど複雑な効果をもサポートします。
(RGBカラーについては、印刷所のRIP側カラーマネージメント機能で「RGB→CMYK 変換」できる機種がある場合のみ可)
そのため「PDF/X-1a」は単調な配色デザインや文字主体の単行本などに最適で、「PDF/X-4」は透明性や複雑な効果を多様したデザインに適しますが、複雑なデザインオブジェクトであっても全面を「ラスタライズ」し「1枚画像化」すれば「PDF/X-1a」で入稿できます。
いずれも印刷会社が規定するプリセットを確認して適切に書き出します。プリセット設定が配布されている場合はそちらを優先します。
「Illustrator」で「入稿用PDFを書き出す」手順は?
ここでは IllustratorでPDFのプリセットを「PDF/X-4」に書き出す手順を解説します。PDFは標準規格のため、他のアプリの場合でもプリセットが PDF/x-1aの場合でも同様の手順で進められます。
Illustratorでのデザイン前「新規アートボード(ドキュメント)設定」
- PDF書き出しをスムーズに行うための「アートボードの基本設定」です。
[ 印刷タブ選択 ]→ [ 印刷の仕上がりサイズ「横×高さ」入力(または選択) ]→ [ 裁ち落とし「天地左右:3mm」入力 ]→ [ 作成 ] ※トンボは入れません
デザインする上で、色や画像(絵柄など)を仕上がり紙面いっぱいに入れる場合は、裁ち落とし3mm幅まで塗り足します。 - カラーモードは「CMYK」。
カラーモードを「RGB」で作成するとPDFに変換した時に機械的な計算式で色全体がCMYKに置き換わるため色調が変わってしまいます。
裁ち落とし・カラーモード・アートボードを途中から変更するには?
以上の基本設定は後からも変更できます。
- 裁ち落とし作成
[ ファイル ]→ [ ドキュメント設定 ]→ [ アートボードを編集 ]→ [ 裁ち落とし「天地左右:3mm」入力 ]→ [ OK ] - カラーモードを変更
[ ファイル ]→ [ ドキュメントのカラーモード設定 ]→ [ CMYKカラー ] - アートボードのサイズ変更
ツールバーの[ アートボードを選択 ]→ アートボードパネルの[ 右上「≡」記号→「アートボードオプション」選択 ]→ [ 幅・高さを入力 ]→ [ OK ] ※上部「コントロールパネル」からでもサイズ変更可。
印刷用PDFの書き出し手順
- 完成したデザインは元データとして必ずai保存しておきます。
- [ ファイル ]→[ 別名保存 or コピー(複製)を保存 ]→[ ファイル形式: Adobe PDF(pdf) ]・[ 名前(ファイル名) ]と[ 保存場所 ] を指定 → [ 保存 ] → [ Adobe PDF プリセット:PDF/X-4:2008(日本)]
-
左メニュー[ トンボと裁ち落とし ]→ [ トンボ「□トンボ」のみにチェック ]→ [ 裁ち落とし「□ドキュメントの裁ち落とし設定を使用」にチェック(←塗り足し領域3mmがある場合) ]→ [ PDFを保存 ] これで指定した場所にPDFが書き出されます。
PDFデータ入稿前の確認事項
保存後は入稿データに不備が出ないよう下記事項をチェックします。
- トンボのつけ忘れ
「PDF設定でのトンボ」と「3ミリの塗り足し領域」が入っているか? - サイズ違い
「実際の仕上がりサイズ」と「PDF設定のサイズ」が同じであるか? - 画像の解像度の不足
配置された画像の解像度が「仕上がりの寸法で300ppi以上」あったか?
「PDF/X-4」プリセットでは、画像を印刷用途に最適化する圧縮設定が含まれ「配置された画像が高解像度」であれば適切サイズに縮小しますが、「低解像度の画像」であれば低解像度のまま印刷されるので、ジャギった(荒れた)仕上がりになります。 - フォントすべての埋め込み
PDF保存するとフォントはすべて埋め込まれますが、中には埋め込み不可のフォントもあるため確認します。(埋め込まれないフォントもある)埋め込まれないフォントがあった場合は保存時に下記メッセージが表示されます。
ライセンスの制限のため、フォント◯◯◯(フォント名) を PDF ドキュメントに埋め込みできませんでした。テキストは表示されません。 PDF ドキュメントは「PDF/X」に準拠していません。
原因は「フォントのライセンス」や「フォント独自の設定」で埋め込み不可のフォントを使用していた為です。対象フォントをアウトライン化(図形化)するか、埋め込み可能なフォントに差し替えて対応し保存をやり直します。
さいごに
PDFファイルは解像度や圧縮率、カラー モードなどの条件を設定して生成できるフォーマットです。PDF入稿をマスターすると印刷トラブルが回避できるなど多くのメリットがあります。